ちょっと立ち話 | 媒酌人令婦人哀歌 | 2002/5


夫の若き友人が結婚する。形だけの仲人を頼まれた。
私は夫共々あのひな壇に座らなければならない。
結婚式当日。霧雨。昨日からの雨は上がっているものの、気分は浮かない。
10余年ぶりの着物なのに、あ〜雨かあ・・・
前日 美容院に持っていった着物一式が着付けの手順とおりにならべて準備してあるのを見てちょっと感動。 さすがのプロの着付けと、外ハネの可愛らしい髪型に大満足したし、 まあ〜きれいという美容院スタッフのリップサービスで 気分は爽快になった。
馬子にも衣装。自分の事ながら なんとお軽い人だこと!
「なにしてるんだあ〜」の夫の声にいらいらしながら 探しまわった扇子を台所で見つけて、
小走りで車に急いだ。さて出発。今日の私のお役目は・・・・
神前式での立ち会い、披露宴への来賓のお出迎え。そして・・・花嫁さんの介添え・・
簡単なリハーサルとレクチャーを受けた。さて お仕事のはじまりだ。
夫以外、だれひとりの面識もない。
するめいか、昆布、乾燥梅干を頂いて、厳粛な式で笑うことも転ぶこともなく無事終了。
披露宴のお席表をみると、頼まれ仲人の女房である私の席名は『媒酌人令夫人』
思わす吹き出してしまう。そうなんですか・・・・・・
さて披露宴へのお客様のお出迎え。主役の新郎新婦、ご両親と共に金屏風の前に並び、
”頼まれ”という名のもと にこやかに頭を下げた。
形ばかりの介添えで、私の右手の上に花嫁さんの左手が軽く置かれ、
進行者、夫、新郎、と順にしずしずと入場した。
4人勢揃いして一礼したあと 一段高いひな壇で新郎新婦の横に座る。
集まる衆目の視線をじっと我慢してさえいれば メニューは滞りなく進められて行くのだから
・・・辛抱辛抱・・・・
夫の仲人挨拶は「お付き合いの心得」の本の中にあった”お仲人さん挨拶例”そのままだったけれど 
低音の魅力と さながらの貫禄で うんうん、なかなかよかった!

新婦さんの入退場の介添えは自分のお母さんにしてもらいたいという
新婦さんのたっての希望によって、入場後の私の仕事は全く無くなった。
良かったような、悪かったような。。。。
新婦さんのお色直しで隣りの席は始終空となり、仕事もなく 文字とおり、孤立無援となった。
私は 話す人もなく、ご馳走を頂くこともおぼつかない。
折りにつれ、口角を上げてにこやかな顔を作る。これぞ苦行。
これこそが 留袖に身を包み、空席の花嫁の隣に鎮座する私”令夫人”のお役目だったことを
思い知った。”令夫人”とは何者ぞ
あれこれメニューが終わり、 「本日の大役をお願い致しました媒酌人様のご退場でございます。」・・・
(あ〜座っていただけでございますが・・・この苦行は大役でございました)
今度は仲良く夫と二人、満面の笑顔で拍手の中 退場した。
最後に出席者をお見送りすべく、再び金屏風の前に立ち、最後の御挨拶で今日のお仕事は終了。
やれやれ。ぼろ雑巾のようにくたくたに疲れた。
頼まれ仲人とはいえ、何日か前までは、若き人生の門出に一役をになうことにいささか感動し、
今日はハンカチを用意しての登場だったのに、こんなに冷めてしまったのは、何故なのだろうか。
いっぱいいっぱいの緊張でゆとりがなかっただけなのだろうか
次に留袖を着るときは、ひな壇の上でなく親族席の末席の方かもしれないが、・・・・・
こんな時代、それとても大役だなあと、溜息混じりで・・・思う
娘を持つ私には、勉強すべきこと、娘に伝えるべきこと、
あれこれ考える、盛り沢山の初仲人体験だった。

さて。
「人間一生の内、3回は仲人をすれば、天使になれるんだって」
『え〜天使っていうのは初耳よ』
「3回はすべきと言われているのは知っているけれどね」
では、3回のその内訳とは何かって、ネットで検索してみたら、こんな含蓄のある説明があった。
1回は、自分自身の結婚の際の仲人さんへのお礼。
2回目は、やがて来る子供の結婚の仲人をして下さるであろう方へのお礼。
そして3回目は、世間様へのお礼。

今回の苦行で、20年余年前 お願いした私達のお仲人さんに、改めて感謝した。