ちょっと立ち話 | 計らずも徘徊 | 2001/9

午前2時30分、草木もねむる丑三どきなのだが・・・・・・
「テツが逃げてるぞ。扉が開いてる。遠くで泣き声も聞こえた」
夫が私を起こした。朝になる前に捕まえておかなきゃいけない。
体重17kg。気のいい犬だが、犬嫌いの人にはもちろん、ちいさな小学生は怖がるだろう。
それに、首輪はいつもはずしているから 
誰かに捕まえられたら捨て犬と思われてすぐに保健所行きとなる。
私は着替えるのが面倒だったので、そのままの姿で家を出た。
白のレースがいっぱい付いていないからいいようなものの・・・
『寝間着姿にみえる?見えないよねぇ』
夫といえば、帰って来たばかりのようで、きちんとしたシャツ姿。
まあ、いいやあ
いろいろな音がなくなっているこんな時間。二人の話声は妙に響く。
「散歩のあと、きちんと閉めていなかったのか。」
『うん、そうかもしれない。でも、散歩のあとも妙にないていたから・・・』
「北側から声が聞こえたぞ」
一緒にいても効率が悪いので 夫は右に、私は反対方向に歩き出した。
一人になり急に怖くなったが、無理して歩いた。どうぞ誰にも会いませんように。
小さな声で”テツ”と呼んだが、シーンとしている。
夕方 ずいぶんと長く散歩に連れて行ったのに、脱走とは。わがまま犬め!
風はひんやりしていて気持ち良いが、夜露もかかって寒くなってきた。
ちょっと走ったが、パタパタという足音が響いて、誰か追っかけて来ている気がする。
口笛を吹いて見たが、テツの気配はない。老いらくの恋を楽しんでいるのかもしれないし、放っておこう。
低く下りたような満天の星空はすがすがしい。持っていた首輪と紐をくるくる回した。
どのくらい歩いただろうか。人の気配がしたが、夫以外の人だったらどうしよう。そう思ったら
また急に怖くなったので、人の気配を逃れるようにして我が家に向った。
やっと辿り着いたら、夫も疲れたように立っている。
『どうする?やっぱり見つからない?』
「あのね、あれから2〜3分して、口笛をふいたら飛んできたぞ。
抱っこしてつれて帰ってもう小屋に入ってる。」
『なんだあ』
「もう〜僕は長いこと君を探していた。どこをふらふらしていたんだ。」
『ごめん でも私だってテツを探してたのだから』
「まっ遅いから早く家に入ろう」
深夜、計らずも スニーカーを履いた寝間着姿で徘徊していたのは、私だったようだ。
『ねぇ もし私が本当に徘徊するようになったらどうする?』
夫は笑いもしないで黙っていた。