ちょっと立ち話 | 思い出の浴衣 | 2001/6

末娘が小学4年の夏祭りの時のこと。
「おかあさん。私の浴衣ある?」
息を弾ませて帰って来た。
地区の夏祭りに、友達みんなで浴衣を着て行く約束をしたという。
ちょっと小さい時に着ていた浴衣の丈あげをとれば大丈夫と思ったので
深く考えないで、簡単に「あるよ。」って答えた。
しばらくたって、お祭り前日。
「明日の浴衣、着てみたい」というので、
「そうそう。ちゃんと準備してあるよ。あげも下してあるし。」
そういって浴衣やら、帯やらいろいろ準備してあるのを並べた。しかし、
実際に着てみて、唖然とした。浴衣の着丈は短くて、おはしょりも取れない。
どう見ても、昭和初期の子供の寝巻きみたい。
「ずいぶん大きくなっていたんだね。ちょっとこれは無理だわ。」
私があまりにうかつなので 娘に申し訳ないことをしたが、
「ま、買えばいいわ。」って思った。すぐに市内のあちこちを回って探したが、
140や150のサイズのものなどすっかり売りきれていて、
呉服屋さんにも、デパートにも、スーパーにも何処にもない。
さんざん探した疲れと腹立たしさで、「私、お祭りに行かないから、もういい!」
「ごめんね、でも明日の夕方までにはちゃんと準備するから、」
と言ったものの、どうしよう。
手芸店を何軒かまわって、浴衣の作り方の本を買って来た。
浴衣の生地も手に入らなかったので、
なるべく浴衣の柄に近い藍色にアジサイの絵柄の普通のコットンを買った。
作ったこともないのに、作る以外に良い方法が見つけられなかった。
直線縫いだもの!なんとかなる。
夕食の片付けもそこそこに、取りかかった。裁縫どころか、工作そのもの。
もちろん徹夜で、空が白んでくる頃、やっと浴衣の形になって
あと、手縫いの所だけ残して、娘にみせた。
「学校から帰る頃には出来あがっているからね。」
手縫い部分の後の始末に意外に時間がかかったが、なんとか間に合って、
娘は揚々とお祭りに出かけた。
私に似てなくて、細面な娘に その浴衣はよく似合っていて
一緒に行った他のお母さんから、モダンな浴衣ねと たくさん誉められた。
この浴衣を見るたび、
「もうお祭りには行かない」って言った娘の顔と、
友達とおしゃべりして、楽しそうに夜店を回っている娘の顔を思い出す。

なぜかいつも、綱渡り。