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ちょっと立ち話 | 介護 | 2006/1


夕食に、どうしても大葉が欲しかった。
近くの大型スーパーまで、10分もあれば行ってこれる。
さてっと、大急ぎで出かけた。外はもう真っ暗で、寒い。
駐車場について、道路を横断しようとしたけれど、なんだか様子がおかしい。
混雑する時間でもないのに、車はとろとろ走っているし、蛇行している。
みると、数メートル先の道路の真中に全く動く気配のない人影がある。
なにごと?どこかの酔いどれじいさんに違いない。
絡まれるのも嫌だし、急いでいるし、放っておこうと思ったけれど、
転んで路肩のコンクリートで頭を打って、老人死亡なんて 
明日の新聞に出ていたりしても悔いが残る。
ちょっとした好奇心も手伝って近寄ってみると、どうも様子が違う。
その人影は、体の自由が利かない老人だった。
立っているのがやっとだったし、話すことも出来ない。 どうやってここにいるの??
「誰かと一緒にきましたか」って言ったら、指がチョキになった。
「どこから来ましたか」って言ったら、駐車場に目がいった。
私の言うことは分かってもらえるらしい。
私の背中を持ってもらって じりじりと摺り足で
時間をかけてスーパーの入り口にやっとたどり着いた。
誰ともなく、人を見て、老人が背伸びをして大きな声を出したのにはびっくりした。
察するに車でやって来て、連れの人が買い物に行っている間、
駐車場の車の中で待っているはずであったようだ。
ドアーを開けて外に出て、歩いて後を追ってこようとは
連れの人は思いもしなかったのだろう。
摺り足しかできないのだから、私だってそう思う。
スーパーのインフォメーションの方に全てを預けて、私は買い物に走った。
帰りがけ、入り口近くの携帯ショップでその老人を見かけた。
娘さんと一緒で、スーパーにおいてある車椅子に座った後ろ姿。
ほんの30分の自由。きれいごとではない時間の重さを思って、胸が痛かった。

私の両親が亡くなってから、13余年。
父は最期までしっかりしていたけれど、母は介護が必要だった。
「寒いから、何か着なきゃ!風邪ひくよ」と言葉は優しげなのに、
引っ張るように毛糸のちゃんこを着せた きつい目の私に向かって
合掌した母の姿は忘れられない。