ちょっと立ち話 | 貝のペンダント | 2005/05


よく晴れた休日。
家の中の用事を簡単に済ませて、早速に庭に出た。
百均で買った小さな熊手で芝をごりごりかいていたら、
やっぱり安物かしら・・・もち手がすぐにはずれてしまった。
夫は工具が好きで、いろいろ便利なものが取り揃えてある。
ちょいと拝借して木ネジを探していたら、道具箱の中から、シジミ貝のかけらが出てきた。
シジミ貝のかけら。そうそう・・・・・・

かれこれ10年も前になるかしら、末の娘が保育園の頃のこと。
忙しい父親を持つ子供は、休日でも何処かに遊びに連れて行ってもらえるわけでもない。
まっ、これが日常だから、私だって、子供だってどうのこうの言うことはない。
そんなある日、保育園から帰ってきた娘が
「○○ちゃんはいいなあ・・・」
「私もあんな貝のネックレスがほしいなあ」
聞くと、お休みの日に家族で遊びに行って、お土産屋さんで、ピンクの貝のネックレスを買ってもらったのだそうだ。
遅くに帰ってきた夫に話すと、夫は意を決したような顔をして、台所に向かい、
夕飯のお味噌汁に使った、シジミ貝の黒い貝殻を二つ三つ持ってきた。そうして
道具箱から、小さなドリルを持ち出してシジミ貝に穴を開け始めた。
結構固くて、小さな穴を開けるのは難しい。急いで力を入れすぎると、パキンと割れてしまう。
幾度か失敗して、やっと穴が開いたのは、明け方近かったように思う。
其の間、私はリリアンの糸で、紐を用意した。
こんなにしても、シジミ貝のネックレスじゃ気に入らないと思うけれど・・・・・・
翌日、朝御飯のとき、夫と二人して作ったシジミ貝のネックレスを見せたけれど、
やっぱりピンク色の貝じゃないと気に入らなかったようで、
娘はふんっと言って、食卓テーブルの上に放り出したまま保育園に行ってしまった。
何日かの間、壁に画鋲でつるしてあったけれど、いつのまにか忘れられて、とうとうゴミ箱行きとなった。
シジミ貝のかけらはそのときのもの。

保育園に行っていたあの時の娘は今春、進学のため家を出て行き、
25年振りに 夫と私は二人きりの新婚生活に戻った。
寂しくないって言えば嘘になる。泣きたくなったら、夫にもっと甘えてみようかしら。
我ながら しおらしい気持ちに照れて、上手に修理できた熊手を片手に、
歌舞伎役者のような見得をはっておどけてみた。
今日の夕飯はシジミ貝のお味噌汁にしようか。