ちょっと立ち話 | 大失態! | 2004/7


私の休日。午前9時。さて、台所を片付けようか。
お弁当作りに使った油をこすために、てんぷら鍋を火にかけた。少し温めてからこそう。
電話のベルが鳴る。てんぷら鍋を気にしながら電話を取った。
まあ・・gakikkoちゃん!お元気?ひさしぶりだね・・・
何度も電話したけど、忙しくしてた?
まあ・・奥様してるって思ってたけど、お仕事してるの?今日はお休み?
声の主は遠方にいる古くからの年配の知人からだった。
ちらっと台所を見たけれど、ここまではてんぷら鍋はまだ大丈夫だった。
介護されていたご主人の死。介護、いろいろあってねぇ。寂しいし、情けないし・・・
元気そうな声だったのに、涙ながらの話は、朝からちょっと重い。
私はソファーに座り込んで、台所に背を向けてしまった。
電話が終わって、すぐに台所に戻ればよかったものの、
てんぷら鍋のことなどぷちっと飛んでしまっている。
それから洗濯場で洗い終わったタオルをぱたぱたやって、洗面台を片付けていると
どこぞでパチパチと音がする。
あっ!青くなって台所に戻ると、てんぷら鍋から火柱がのぼり、
天井に50cm?1m?・・・・もっとだったかな?黒い煙が立ち込めている。
冷蔵庫の上に置いてあったはずの消火スプレーを探したが、
黒い煙に邪魔されてどこにあるのか分からない。
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火が消えた後には濡れ雑巾や濡れタオルが何枚も鍋の横に投げ散らかっていた。
ススにまみれた無残な台所。黒煙は層になって、天井に溜まったまま。
呆然としてたら、なにやら、どさっと落ちてきた。
ひぇっ!どろどろに溶けて、一塊となった換気扇の羽だった。
なんとかせねば・・・・・ それから、それから、証拠隠滅のためのエネルギーが爆発して、
掃除マシーンみたいに、猛然と体が動き始めた。
ハウスダストに良いっていう、市販のファブリーズを天井に溜まった黒煙に向けてスプレー・・・
こんなんに効くかなあ・・・まるまる一本スプレーしたが、足るわけない・・・
それから、油、スス 水でどろどろになったレンジや床を拭いた。
人差し指に雑巾を巻きつけて、円を描くように丁寧に拭いた。
居間、廊下 階段・・・家中どこもかしこもスス。
3度拭いて、やっと雑巾が黒くならなくなった。
換気扇を発注しておくつもりで業者さんに電話すると・・・・
「火災保険会社に電話して下さい。修理のための見積りに伺います。」
火災保険適応?ですか?
言われるままあちこちに電話すると、その日の夕方、火災保険会社の方が来られた。
いろいろ質問されて、現場の写真撮影。
レンジ上の両方の扉の一部は黒く焦げているし
もちろん前面の耐火パネルは茶色に変色し、ぶくぶくと変形している。
火には関係ないと思っていた天井灯のフードは熱で変形していた。
もちろんレンジフードは真っ黒の焦げ焦げで、細かくみると被害は意外と大きかった。
「換気扇は?どこですか?」
『取り外してあります。これが塊になった羽や枠です。』
「使っておられたてんぷら鍋はどれですか?」
『ぴかぴかにしてしまったのですが・・・これです。』
黒焦げの跡形もなく磨き終わっている。
「ガスレンジは使えますね」
『はい。ぴかぴかで健在です。』
ぼや証拠隠滅のため、あれこれしたことが仇になったと思った。
『あのぅ・・・・・こんなんで火災保険って降りるんですか?』
「はい。保険金は相応におりますよ。」
そういうと、保険に関するいろいろな条項を丁寧に説明してくださった。
『へぇ・・そうなんですか。有り難いです。いままで、火災保険っていうのは全焼以外は降りないって思っていたものですから、 なんか、意外です。よろしくお願いいたします。』
日も暮れて、やっと騒動は落ち着いた。
お昼ご飯も食べていなかったけれど、ちっとも空腹を感じない。
黒ずんだ顔は鼻の穴まで黒い。
横になると、やっとドキドキしてきて興奮していた自分が見えてきた。
22時。塾から娘が帰ってきた。
「お母さん!何やったの?また?」
「で、火傷は?」「で、何回目?」
『うん、火傷はなし。何回目って言われたって、こんなんは初めてよ。』
『今日一日中、掃除で大変だったんだから・・・・』
「無事でよかったけれど、掃除が大変だったのは、自業自得よ。気をつけてよね!」
「毎日、毎日、家に帰るたびに、家が焼けていないかどうか心配するのは嫌だからね!」
『ごめん』
夫はまだ帰ってこない。
『お父さんなんていうかなあ・・・』
「自分のしたこと、叱られたらいいんじゃない?」
23時。夫帰宅。
私は玄関に飛び出して言った。
『あのね。いまから目にすることに関しては一切なにも言わないでね。』
『絶対よ。、コメント無しだよ』
夫の両目を手でふさいで、台所まで連れて行った。
『これです!』
「・・・・・で、どうした?」
一日に起こった一部始終を話したら、大きくため息をついた。
「これほどで済んでよかったけれど・・・・もう、頼むよ!!」
『ごめん』
これで終った。有難い。

システムキッチンの入れ替え、換気扇、天井紙、壁紙の張替え、耐火ボードの張替え
おかげ様で工事費は見積り金額 全額補償されることになり、
一ヶ月経って、やっと工事が始まった。
大失態。でも私は意外とラッキーだった!て思う。

教訓
<消火スプレーは取りやすい足元に置いておくこと>
<油を扱うときには、決してその場を離れないこと>
<人間って反省しているうえに説教されたら、素直になれずに反抗する>
<いろいろな人のお陰で生きている。ありがとう>

<てんぷら油に火が入ったときにはマヨネーズのボトルを鍋に突っ込むのが良い。
どの消火器よりも早く消火が出来ます。==消防署より==>