ちょっと立ち話 | 残念でしょうが・・ | 2003/9


薬局の待合室。本を読みながら時間をつぶしていた。
「お父さ
短く、ちょっと語尾が上がって、とてもやさしい響きだったので、あれって思って声の主をさがした。
白地に紺の小さな水玉のワンピースを着た婦人。70歳後半くらいだろうか。
薬局においてあった野菜クラッカーや、シャンプーあれこれを両手に抱えておられた。
薬ができあがって、ご主人の名前が呼ばれて、薬の説明をうけて・・・・
その一部始終を見るともなく眺めた。
「お父さ 」の一言に 慎ましやかで、お互いがいたわりあっている生活が伝わってくる
私は、そのご夫婦のほわ〜んとした雰囲気にしばらく和んだ。

起動しないPCの前で私は悪戦苦闘していた。
サポートしてくれるのは携帯電話の向こうにいる長男。
黒い画面に一瞬現れる文字を読めっていう。
英語だし、すぐに消えるし よくわからん。
デジカメで撮ろうということになって、あれこれしていると
(デジカメ。どこに置いたかわからなくて探していた間に)
「わかったぞ!CtrlとZを同時に押すんだ。出来たぞ!」夫の大きな声がした。
私がやるとなかなかうまく行かない。
♂「同時っていっても、Ctrlがちょっと先であとからZだぞ。それじゃだめだめ!」
♂「あ〜〜ダメダメ」
♀「そんなん、逆上がりの練習をしてるんじゃないんだから。」
♀「横に立っていてダメダメって言うのなら、あなたが押してくれればいいじゃない。」
♂「画面を読めっていわれたけれど、手伝ってくれとはいわれてないぞ」
♂「僕がやろうっていったら、自分がやるって言って席を譲らなかったのは君のほうだろ!」
♀「もう叱られながらやりたくもないわ」
♀「だいたいこのPCは貴方がウイルスでダメにしたもんじゃない」
♀「そりゃ〜直して使うって言ったのは私だけど。あなた新しいのを買ったんだからいいわよ」
♀「ハードディスクがだめになっているのを再生させる身にもなってよ。へとへとだわ」
このやりとりを電話越しに聞いていた長男
<<ほほえましいですなあ==(笑>>ですって
はっ?何がほほえましい?
♀「こんなんばっかりで。私達の老後って 先が思い遣られるわ」
♂「いつまでも君が僕に噛みついているからさ」
♀「はっ?なにそれ!」
♂「なんかの歌の歌詞にあったよなあ?」
夫は私の怒りを気にもせず、鼻歌を歌った。
曲がったネクタイ なおさせてね
あなたの背広や 身のまわりに
やさしく気を配る 胸はずむ仕事は
これからどなたが するのかしら
(菅原洋一の”今日でお別れ”の歌詞)
♀「はあ〜?勝手がいいわよねぇ。誰がだれのお世話をするって?何が心弾むって?」
♂「歌、歌の歌詞だよ」
♀「あ〜あ 夫を創ることに失敗したわ。」
♀「でもね、残念でしょうが、 貴方だって私を創ることに失敗してるわ!」
運良く金婚式を迎えたら、みんなあの老夫婦のようになるのだろうか?
いえいえ、そんな虫の良い話はない。
お互いのやさしさやいたわりの積み重ね。
トンネルの先の明かりはまだまだ見えてこない