ちょっと立ち話 | さっ!一杯やろう | 2002/9


夏休みが終わって、新学期早々
高校生の子供たちの学校では、それぞれに学園祭、体育祭が行われた。
いろいろな準備に時間を取り、人と人とが擦れ合って、共感もし、反発もしたようだった。
最終日の体育祭が終わって、高校3年生の次男がクタクタになって帰って来た。
足に自信ありの健脚の息子は揚々と帰ってくるはずだったが、どうも様子が違う。
湯気が出そうなくらい赤い顔。日焼けのせいだけではなさそうだ。
おかあさんと言った途端 息子はぐわぁ〜としゃべり始めた。
すべて順調だったのに、最終競技の”棒取り”で、本人いわく、最悪の状態になったらしい。
棒の下で転んだ下級生。それを助けようと棒を肩で支える子。
飛び蹴りされる腕、押し乗ってくる子達。棒取りの状況は察して余りある。
血気盛んな高校生のこと。ちょっと過ぎたこともいろいろとあったのかもしれない。
しかし次男の怒りは、ここからである。
《僕の担任の先生も クラスの女子達も心配して総立ちになっていたのに、
この状態を体育系の教師は手をたたいて笑っていた》
ありったけの理論武装して、口角泡を飛ばしながら思いのたけをぶつけて来た。
悔しさも、無念さもいやというほど伝わってくる。
私はどうしてやりようもなくて・・・・一呼吸おいて言った。
『あなたが無事で良かった。さっ!一杯やりなさい。こういうときは、これに限る』
そういって冷蔵庫の奥にあった一番冷えている缶ビールを差し出した。
一瞬えっと思ったようだが、シュパッとあけて一口ぐいっと飲んだ。
遅れて帰って来た高校1年の妹は全容を聞くと
「お兄ちゃん!お疲れさん。大変だったね」と大人びた口調で一言 言った。
妹の一言と一口のビールで シュンと息が戻ったようだ。
疲れすぎて頭痛もするようだったので、鎮痛剤を飲ませるとばたんとベッドに討ち死にした。
これで、彼の高校最後の学園祭、体育歳は終わった。

子供って、足にスプリングをつけたように、ぴょんぴょん跳ねる。
ぴょんぴょん ぴょんぴょん跳ねているうちに 高く大きく跳ねることができるようになって、
最後に大きく大きく跳ねあがって私達の庇護の壁を飛び出して行く。
長男がそうであったように、次男もまた、飛躍の時期を迎えたのかもしれない。
遅くに帰って来た夫に、
「いい、いい ビールくらい飲ませたら良い」と言われて、私は不覚にも泣いてしまった。
子離れよりも必ず先にやってくる親離れの予感にさみしくなったのかもしれない。

さっ!一杯やりましょう。